引越しました

借りていたブログサイトが合併統合を行ったようで、急にデザインが変更されたりアクセスできなかったりの不安定な状態なので、お引っ越しすることにしました。
新しい日記はこちらです。
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アフターダーク、魂の午前三時を越えて

先入観をもって読み始めたくはなかったので、『文学界』の村上春樹インタビューや『群像』の批評を手に取るのをがまんしてきた。これはお風呂あがりのビールをがまんするのと同じくらいに、つらかった! …ので、この数週間、ビールの方は全然がまんしないことにしてストレスのバランスを取ってきたのだった。

白紙の状態で読んだ直後の覚え書き。

村上春樹の新作『アフターダーク』は、真夜中の0時5分前に始まって翌朝の6時52分に終わる。

かつて村上春樹はスコット・フィツジェラルドの文章をひいて「魂の午前三時に目をさましていてはいけない」と書いた。魂の午前三時には、どんな人間でも孤独になる。死にたくなるくらい孤独になる…。

『アフターダーク』の登場人物は、ただ一人をのぞいて、魂の午前三時にみな目を覚ましている。ファミリーレストランの午前3時、高橋青年は言う。

「午前3時。今がいちばん暗くて厳しいところだ。どう、眠くない?」

登場人物たちはかわるがわる語る。つつがない日常の世界は、悪夢のような闇の世界と薄皮一枚しか隔てられていないのだと。

「二つの世界を隔てる壁なんてものは、実際には存在しないのかもしれないぞって。もしあったとしても、はりぼてのぺらぺらの壁かもしれない。ひょいともたれかかったとたんに、突き抜けて向こう側に落っこちてしまうようなものかもしれない。というか、僕ら自身の中にあっち側がすでにこっそりと忍び込んできているのに、そのことに気づいていないだけなのかもしれない」
(……高橋くん)

「私らの立っている地面いうのはね、しっかりしてるように見えて、ちょっと何かがあったら、すとーんと下まで抜けてしまうもんやねん。それでいったん抜けてしもたら、もうおしまい。二度と元には戻れん。あとは、その下の方の薄暗い世界で一人で生きていくしかないねん」
(……コオロギさん)

いつどこでその深淵が人を呑み込んでいくのか、いつどこで吐き出してくれるのか、誰にも予見することはできない。

映画のファーストシーンのような導入部。「私たちの視線」という語り。カメラ。現在形の文体。前作よりさらに強まったコミットメント。作家から新しく提出されたものをどう咀嚼すればいいのか、一読しただけでは決めかねている。

発生の記憶

カヲリの木▼のオーナー狩野さんが一冊の本を送ってくださった。『発生の記憶▼』と題された末房志野さんの作品集。

それらの造形は、紙に焼け焦げの痕跡をつけることによって生み出されたものだ。
アルタミラやラスコーの壁画を想起させる人間の形(跳ねている)、
野生動物の形(走っている)、
闇の中で発光するタマネギ(凝縮された生命エネルギーそのものに見える)、
樹木(絡みあう枝の中を、樹液の奔流がほとばしっている)、
原初の海(私たちの太古の記憶が浮かんでいる)。

火と紙の出会いが生み出す線の震えや焦げ色のグラデーション。その形状が面白くて、何度眺めても、焦げ痕の中にひきこまれていく。自分が0.1ミリにも満たない紙の虫になって、香ばしい焼け跡の宇宙を這い回っているような気分になる。

私には、珈琲の焙煎人である狩野さんがこの本をプレゼントしてくださったということも面白かった。紙を焦がして造るアートを「紙の焙煎」と呼べないこともないな、と思って。
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